水を巡る国同士の紛争

水は、人々の暮らしと健康を守るライフラインである。
それだけに、水をどう分け合うか、という問題で、隣国同士が争う例は非常に多い。
国境の設定によって、水の領有権は大きく変わる。
また、長い川となると数カ国を貫いて流れる場合も少なくない。
そのとき、どの領域が誰のものなのか、水源地は何処なのか、川に何らかの加工をしても下流の国は怒らないか・・・などなど、さまざまな問題が発生する。

降水量が十分にある日本からは想像しづらいが、世界の国では、国民の人数分の水を確保するかは大変な問題である。
砂漠の国などにおいては、水は命に等しい。
砂漠にも日本と同じく「湯水のように使う」という慣用句があるが、意味は日本と正反対である。
つまり、「いつ尽きるかもわからない水のように、大切に、大切に使う」という意味である。

一方、東南アジアのように降水量の多い国々でも、水は貴重品である。
なぜなら、「清潔な水」をキープすることが難しいからである。
このように、それぞれの事情が絡んで水を巡る紛争が起こる。
多くの水紛争の中で、印象に残ったいくつかの事例を挙げてみよう。

インドとパキスタン

インドと言う国を象徴する存在として有名なのがガンジス川。
「流れる水、新鮮な水はすべてガンジスにつながる」と人々はみなしている。
ガンジス川の水を使って私的な「裁判」をしたりと、神聖なる河に対する国民の思いは深い。
死体の流れる川で歯を磨いたり、沐浴したり・・・という、もはや常識を超えた行動には、インド人の持つ計り知れない精神性を垣間見る思いがする。

ところで、このインドと犬猿の仲なのが隣国、パキスタン。
インドの西側にある砂漠の国である。
非常に乾燥した気候で雨量も少ない。
ラビ・ベアス水系という水路を使って、インド北西部の荒地へと水を供給している。
これはインドと水資源利用協定を結んだためである。

砂漠地域に位置するパキスタンは、かなり無理をして、この供給を行っている。
しかし、インド北西部もこの水の有無が死活問題となる。
今、両国の間では、この水路の水は重要な外交カードとなっている。

もともと仲の悪い両国のこと、インド側が少しでも妙な事をしたら、即刻パキスタンは送水をストップする。
その度にインド北西部は、水の供給を止められて苦しむことになるのである。

イスラエルとヨルダン

アラブ諸国の中に突如作り上げられたユダヤの国、イスラエル。
3000年以上も昔、神の導きによって作り上げられた古代イスラエルを外敵に滅ぼされ、やむなく世界中に散っていったユダヤ人たちは、さまざまな迫害を受けつつも願い続けた祖国の再建を実現したのだった。
しかしその結果、血を血で洗う紛争の歴史が新たに刻まれ始めたのである。

アラブ諸国とイスラエルの争いは、領土問題であり、宗教問題でもある。
そしてもう一つ、忘れてならないのが「水」の領有権を巡る、せめぎあいである。

イスラエルに隣接する国、ヨルダンは「ヨルダン川」という川を擁している。
このヨルダン川に注ぐ川が「ヤルムーク川」。
この川の利権をめぐる反目がある。

水不足に悩むヨルダンは、この川にダム建設を計画した。
ところが、イスラエルは「ヨルダン川の下流は我々の領地。そこの水量に影響が出たらどうする」と猛反対したのだ。
しかもシリアまでが「ヤルムーク川の水源はわれわれの領地だ」と権利を主張、いまだに解決を見ていない。
さらに、ヨルダン川の上流、ガリラヤ湖もイスラエルに押さえられている現状で、ヨルダンの苦労は尽きない。

水不足に悩んでいるのは、イスラエルも同じである。
1948年に建国して半世紀を超え、人口も増え、国土開発も進む中で膨大な水の需要がある。
しかし、いかんせん乾燥地帯とあって絶対量が少ない。
川の利権に関して神経質になるのも、無理からぬところである。
さらにパレスチナ自治区との絶え間ない戦闘も、水源を巡っての小競り合いという側面がある事は確かである。

シンガポールとマレーシア

1965年に、マレーシアから分離独立したシンガポールはその後目覚ましい発展を遂げ、アジアの経済先進国へと躍り出た。
しかし、水の供給はマレーシアに頼っている。
シンガポールは人口全てに供給できるだけの水源を、国内に持っていない。
降水量はふんだんにあるが、国土が平坦で貯水機能が乏しく、自給には程遠い状態にある。

そこで、シンガポールとマレーシアの間には全長1キロメートルの橋が築かれ、そこに敷設されたパイプラインから水が送り込まれている。
現在、1965年の独立時に2国間で結んだ協定に基づいたレートで水の売買はなされているが、その有効期限が過ぎると、マレーシアは現行の100倍に水を値上げする意向を示し、両国間には火花が散っている。

シンガポールは当然、水の完全自給を目指している。
その手立ての一つが、なんと「下水を濾過して上水としてリサイクル」という方法の開発である。
この水「ニューウォーター」は、念入りに浄化したものである、という宣伝がしきりになされ、人々が「もと下水」という悪いイメージを持たないように、さまざまな努力がなされているが、さすがに難しい。

シンガポールの水資源には、ほかにも海水の淡水化などの技術も試されている。
観光地としても発展している国だけに、安全できれいな水の確保は、国内に向けてはもちろん、外からやってくる観光客に対するイメージ戦略上も欠かせないことである。

コメントを残す

サブコンテンツ

このページの先頭へ